いきなり王子様
腰に回された竜也の手の上に、ためらいがちに私の手を重ねた。
男性にしては細くて綺麗な指は、竜也が車を運転している時から気になっていて、実際に触れてみると、見た目通りの滑らかな肌にどきっとする。
何度か私の頬を撫でたり、手を繋いだりしたけれど、こうして『触れる』という事に意識を集めて、その肌を、体温を、感じる事は初めてだ。
竜也が思いの外強引で、自分の思うがまま私を振り回していると言ってもいい状況の中で、初めて私から身を寄せた。
重ねた竜也の手の温もりは、私の中の戸惑いと迷いをすっと覆って、どうして竜也が私を求めてくれるのかわからない不安を消してくれるように思える。
たとえ会社の同期だとは言っても、全く繋がりがないと言っても過言ではない関係の私と竜也なのに、昨日工場で打ち合わせをした事をきっかけに
『遠距離恋愛』
をしようと言われて。
それ以降の時間の殆どを一緒に過ごしている。
竜也が私を求めてくれる理由も、恋人として側におきたいと言ってくれる真意も、今の私にはよくわからない。
そんな不安が、竜也との距離を縮めることをためらわせていた。
見た目ゆえに、私は見も知らぬ男性から思いを告げられたり、強引に付き合いを求められた事は多い。
そんな事が重なるうちに、男性への不信感と、恋愛への苦手意識が高まっていたけれど、この二日間、次々と見せられる竜也の本来の姿が私を惹きつけてやまない。
仕事への姿勢や、自分が大切だと思える物への愛情の注ぎ方を知る度に、私の気持ちはどんどん竜也へと傾く。
だから、やっぱり聞かずにはいられない。
「竜也は、どうして私と恋愛したいの?」
重ねた手にぎゅっと力を込めて握りしめれば。
竜也はほんの少しのためらいも感じさせないタイミングで、答えてくれた。
「もちろん、奈々が好きだから」
それは、とても簡単で、私が一番欲しかったに違いない、言葉。