いきなり王子様
「あれだけ走り回ったら、そりゃ寝落ちするよな」
「そうだね。付き合ってた私も結構ハードだったもん」
「子供と鬼ごっこなんて何年ぶりだっただろう」
「軽く10年前、ううん、それ以上かも」
竜也と顔を見合わせて笑いあう。
目の前には、ソファで眠っている璃乃ちゃんの寝顔があって、その可愛らしさに目を細めながらぼそぼそと話していた。
どう見てもぐっすり眠っているとはいえ、目が覚めないよう小さな声の私たちは自然と距離も近くなっていた。
肩を寄せ合って璃乃ちゃんを見つめている状況に気が付いて、なんだか気恥ずかしい……のはきっと、私だけだろうけれど。
表情に何の変化もなく、フラットなままの竜也を見ていると、自分ひとりが右往左往させられているようで悔しくもある。
まあ、彼に振り回される事に慣れつつある私自身にも悔しさを感じるけれど。
「璃乃が寝てる間、コーヒーでも飲む?」
竜也が私の背中に何気なく手を滑らせるだけで、その悔しさ以上の潤いが体に溢れるようだ。
本当、私って簡単な女だったんだな……。
「どうした?」
「あ、なんでもない、えっと、そうだね。コーヒー淹れようか?
っていっても、勝手に使ってもいいのかな」
ゆっくり立ち上がる竜也に続いて腰を上げると、竜也は当たり前のように私の腰に手を回して歩き出す。
「姉貴に頼まれて何度もこの家で子供達の面倒見てるから、そんなの気にする事ない。
なんなら食事も作って風呂に入ってもいいぞ?」
「ふ、風呂?」
「そう。この家の風呂、ジャグジーもついてるし、気持ち良すぎて癖になる。
子守りを二つ返事で引き受ける理由の一つかもな。
奈々も、一度入ってみれば?言葉通り極楽だぞ」
「う、ううん、いいや……着替えもないし」
リビングからキッチンへ向かいながら、その極楽を味わう前に、私の心臓は跳ね過ぎて止まってしまいそうだと、体中が熱くなった。