いきなり王子様
思わず呟いた私の言葉に、肩を竦めた竜也は
「それは俺のセリフだ。今こうしている奈々も、俺が思っていた奈々じゃないみたいだ」
私を見つめながら笑い声をあげた。
「私じゃないみたい?」
「そう。社内で有名な『お姫様』が、こんなに顔を赤くして俺の隣でおろおろしてるなんて、予想もしてなかった」
コーヒーを飲みながら、からかうような声。
その表情は楽しげで、今私と二人でいる事を心地よく感じてくれているとわかるし、ほとんど触れ合うに近い距離で椅子を並べている私たちは、まるで離れがたい恋人同士であるかのようにも感じる。
男性とここまで近い距離で過ごす機会なんて滅多にないせいか、その事だけでも緊張してしまうのに、私を惹きつけてやまない竜也がその相手。
胸の鼓動はかなりの速さでとくとく言っている。
それでもどうにか平静を装って
「おろおろなんて、してないし……。それに、『お姫様』なんて、今更竜也に言われたくもないし」
呟いた。
『お姫様』と呼ばれる事に慣れてはいても、喜んで受け入れているわけではないと、竜也はわかってくれていると思っていたのに。
違ったのかな。
昨日今日のつきあいだから、それも仕方がないか。
ずっと、といってもおかしくないくらいに昨日の夕方から一緒にいても、まだ私を理解してもらうには足りないようだ。
思わず俯いた私に、竜也はくすっと笑って。
「他の奴らが奈々をどう見てるかは……まあ、見た目によるところが大きいとは思うけど。
俺にとって奈々はずっと、見た目云々に関係なく大切な『お姫様』なんだ。
それはこれからも、だと思うから、奈々も諦めろ」