いきなり王子様
「え……あ、そう……って、え?ずっと?」
さらっと言い切った竜也の言葉にどこか違和感を感じた。
『ずっと』
確かにそう言った。
それって、一体いつから?
入社して以来その呼び名には慣れていたけれど、竜也にしても、そうなんだろうか。
「私の事をお姫様だって、ずっとそう思ってたって、どういう……?」
入社してからも、大して親しかったわけではないし、配属されてみれば全く接点もない離れた勤務地。
それなのに、『ずっと』っていう言葉が出てくる事に、おかしいと思わずにはいられない。
「奈々が『お姫様』だと周りから言われているのは知っていたけど、俺は大して興味なかったんだ。
単純に見た目がいいだけの、それだけの女かと思ってたけど、それはいい意味での勘違いだったって知ってからは、もう、一気に奈々が気になって仕方なかったな」
隣同士に並んでいる近い状態で、優しく目を細めた竜也が私をじっと見つめて。
「仕方なかった、というより、どうしようもなかった」
そっと私の頬を指先で撫でて。
「奈々が、『みんなから大切にされすぎて、いつ泣いていいかわかんないよね』そう璃乃に言ってるのを聞いてからはもう、だめだった」
小さく息を吐いて、そらすことなく私の瞳を見入る竜也の言葉、確かに思い当たる事がある。
「それって、私が璃乃ちゃんに病院で言った言葉……?」
驚く気持ちを隠さず呟くと、竜也は小さく笑って、その嬉しそうな顔を私に近づけた。