先生の誘惑
「…聞いてないだろ?」
不機嫌そうに降ってきた声色に、反射的に私は首を横に振った。
「なら、もう一回俺が言った事説明してみ?」
「え、えーっと…」
答えられずどもる私の耳に、甘い誘惑が語りかける。
『残念、居残りだな?』
「え!?」
私の反応に、先生は声を殺して笑う。
「不思議だな、今のは聞こえたんだ?」
“出来るまで帰さないから覚悟しとけよ?”
耳に残されたその言葉に、私の体温はいっきに上昇する。
教壇に戻る後ろ姿をうっとりと眺めながら、甘い妄想を膨らまさずにはいられない。
あの匂いを、先生を独り占め出来る。
終了のチャイムが鳴った時、先生が私に微笑んだ気がした。
[完]