残り香
残り香
カーテンの隙間から射しこむ陽光が顔に降り注がれて、そのまぶしさに耐えられず目を開ける。
すでに頭上にある太陽が、お昼を過ぎていることを伝える。
まだ覚めきらない重い瞼をこすりながら、気だるさの残る体をなんとか起こす。
隣に視線を向ける。
そこに彼の姿はない。
真面目な彼はきちんと起きて、仕事に行ったんだろう。
すっかり熟睡しきっていた私は、彼がいつベッドを抜けだしたのか、知らない。
物音を立てないよう、私を起こさないように気を遣ってくれたに違いない。
白いシーツを引き寄せて顔を埋める。
まだ残っているはずの彼の匂いを感じたくて。
彼がつけている香水の匂いも。
彫の深い顔立ちの彼によく似合う、南国へといざなうどこかエキゾチックな香り。
まるで彼のためにあつらえられたような香りだ。
何年か前の誕生日、私が彼にプレゼントした。
彼はとても気に入って、ことあるごとにシュッとひと吹きしている。
肺の奥深くに届くように思いっきり吸いこむ。
……ああ、この匂いだ。
汗も、体液も、香水も、何もかもがひとつに溶けて混ざりあった匂いは、彼独自の匂いを作りだして発する。
それはなんともいえず、夕べの記憶を鮮やかによみがえらせて、甘美な世界へと再び舞い戻していく。
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