残り香
夕べ、きつく抱きあった。
お互いに求めあって、貪りあって、その存在を深く深く刻みつけるように。
思いだすだけで神経が昂ぶって、体の奥がじんと痺れそうだ。
艶かしく歪められた彼の表情。
組み敷かれた、逞しく力強い腕。
荒々しい息遣い。
ポイントだけを的確に攻めあげて、確実に追い詰めていく手の動き。
私の体の隅々までもうとっくに知り尽くして、無駄がない。
この匂いに包まれていると、彼に抱かれているようだ。
触れられたところが熱く疼く。
たまらない、愛しいこの匂い。
目を閉じて、もう一度深く吸いこむ。
この匂いは私を安心させる。
よし、充電完了。
ベッドから出て顔を洗って、お気に入りの服に着替えて、メイクして。
それから、晩ご飯の買い出しに行こう。
そうだ、彼の好きなものを作ろう。
特大サイズのハンバーグを作ったら、どんな顔をするだろう。
スパイスはたっぷりの愛情だ。
きっと、喜んでくれるだろう。
彼の笑顔を思い浮かべながら、ゆっくりとベッドを抜けだす。
そして、勢いよくカーテンを開ける。
まぶしい光が部屋いっぱいに射しこまれた。
残り香【完】