てのひらの
てのひらの


 残業が終わって、男の同僚二人と訪れたのは、豊富な鮮魚を売りにした居酒屋。平日だけどよく混んでいて、店内はタバコの煙と喧騒に包まれている。

 甲高い女の笑い声、怒鳴るような会話、何かが割れる音。




 飲み始めて小一時間。


 目の前に座る同僚はろれつの回らない舌で喋り続けているけれど、喧騒に紛れて半分も聞き取れていない。わたしはさっきから適当に相槌をうつだけだ。


 正直、君の話はどうでもいい。

 わたしの意識はもう、隣に座る彼にしか向いてない。アルコールに反応して、真っ赤に染まった彼の掌だ。


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