笑顔の向こう側 ~先生とわたしの軌跡~
教室の窓からは
夕日が差し込んでいた

『わりぃ、待たせたな』

凌が教室に入ってきた

学校のかばんと大きな
スポーツバッグを一緒に机に置いた凌は窓際の
わたしの隣に来てから
わたしの顔を見つめた

『何?何の用?』

わたしが沈黙を破った

『夏海、恋してるか?』

『なっ何言ってんの?』

動揺を隠しながら
わたしは否定していた

『最近、元気ねぇし
今日もみどりがいない
からかもしれないけど
部活に身が入ってない。何より、あの時と
同じ目をしてるよ』

何も言えなかった

ただ涙が溢れそうに
なっているだけだった

『恋をするな、なんて
言ってんじゃねぇけど
お前が元気ない事で
周りのみんなだって
心配してるのが
よくわかるだろ?』

そう言って、凌は
窓の外に目をやった

『ごめんね、凌』

わたしの涙はとうとう
こらえきれなくなって
頬をつたっていった

『元気出せよな!
もうすぐ試合もあるし
お前がそんなんだと
いい結果出ないぞ!』

凌の優しさが沁みる

凌はいつもそうだった

みどりがそうであるのと同じで凌もわたしを
解ってくれてるんだ

『苦しいなら、ちゃんと吐き出しておかないと
潰れるぞ。元気出せよ』

みどりも凌も深くは
聞いてこないけど
いつもわたしの事を
心配してくれている

わかるんだ

わかってるんだけど

『ありがとう』

今のわたしの精一杯の
気持ちだった

『今日は母さんが
遅いから、親父と
飯食いに行くから
親父が迎えに
きてるんだ』

だから教室に
呼び出したんだ…

『一緒に帰れなくて
ごめんな!また明日
部活でな』

凌はまた荷物を持って
教室を出ていった

また凌に励まされた

いつもそうだ

凌はわたしの笑顔に
救われるって
言ってくれるけど
苦しい時に何気なく
元気をくれているのは
凌の方なのに
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