笑顔の向こう側 ~先生とわたしの軌跡~
トイレで鏡に向かって伸ばしかけの髪を整える

髪を伸ばしたのは何年ぶりだろうなんて、前髪に触れながら記憶を辿ってみるけど答えは見付からない

やっぱり慣れないから邪魔になっちゃうな…

ハンカチで手を拭きながらトイレから出ると廊下はシーンとしていて誰の姿も見えなかった

【やばっ!急がなきゃ】

廊下を小走りしながら階段を駆け降りていって
廊下の角を曲がる

その瞬間…だった


【ぽふっっ】


誰かにぶつかってしまった

ちょっとだけタバコの匂いが鼻を掠めていた

『ごめんね、大丈夫?』

その人がわたしの顔をジッと覗き込んでいた

『え?あっ、はい。わたしこそ急いでたからちゃんと見てなくてすみませんでした』

なぜか衝撃の痛みなんて全く感じていなくて
ぶつかったと言うよりはまるで包み込まれたかのような感覚だった

わたしがぶつかったのは、その人の胸のあたり

背の高い男の人だった

それにしても、この人見たことない人だ…

顔が整っていて、結構イケメンで

絶対数学とか教えてそうで

きっと今年新しく来た先生だと思うんだけど…

一瞬の沈黙の後に、その人はニコッと微笑んで

『急がなくていいの?』

と言いながら腕時計を見て、体育館のある方向を指さした

わたしは体育館に向かう事をようやく思い出した

『そうだ!ヤバいかも』

軽く会釈だけをして体育館に向かって廊下を走り出していた
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