笑顔の向こう側 ～先生とわたしの軌跡～

先生は、その
わたしの手をグッと
引っ張って…




キスをしたんだ




一瞬の出来事で
何が起きたのか
わからなかった

先生はわたしの手を
握ったまま

『ごめん…』

その後の言葉は
聞きたくなかった

きっとキスを否定する
言葉だから

そんな言葉ならいらない

わたしは
握ったままの先生の手を引っ張り返して…




キスをした




『これでおあいこね』

とわたしは先生に
笑ってみせた

強がりの笑顔だったけど

先生は驚きを
隠せない様子だった

『大胆だな』

先生は笑って言った

キスを否定する言葉は
言わなかった

『黒木って
夏生まれ？』

先生は窓の外を
眺めながら言った

『そうなの。ママが
夏の海が大好きで
わたしが夏に
生まれたから
夏海なの』

『夏の海で夏海かぁ。
綺麗な名前だな』

繋いだままの手を
先生はグッと握り締めた

『帰ろうか』

離したくなかった
その手を離して
わたしはうなずいた