笑顔の向こう側 ~先生とわたしの軌跡~
『あのさぁ』

タバコを消しながら
先生が言う

『俺に渡すものない?』

信号が赤になった

先生は、わたしの
目を見て、ニコッと
笑った

やっぱりわかってたんだ

先生にはバレていたんだ

『俺はお前が
買ってくれた
マグカップと
キーホルダーを
待ってるんだけどな』

わたしが何も
言えないまま、信号が
青になる

前を向いた先生

『あれは
先生のじゃないから』

とっさに嘘をついた

『じゃあ誰の?』

何も言えなかった

せっかく隠していた
好きが
バレていた気がした

先生には隠しきれて
いなかった

『確かに先生に
買ったけど、渡す
つもりはなかったの』

『じゃあ何で
買ったの?』

また何も言えなかった

『俺が欲しいって
言ってるんだから
ちょうだい』

何も言わないわたしに

『なっ?いいだろ?』

なんて言う先生

どういうつもり
なんだろう

今日の先生はいつもの
先生じゃないみたい

今日は今まで
見た事のない先生を
たくさん知った

唇の柔らかささえも
知ってしまった

だけど、変な
期待はしない

わたしは一度フラれて
いるんだから

そんな期待は
無駄になるだけ

『どうしても欲しい?』

先生は、笑顔で

『うん!』

と言った

『わかった』

わたしの答えに
先生は喜んでくれた

子供のような笑顔で
< 56 / 383 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop