笑顔の向こう側 ~先生とわたしの軌跡~
『よっ!黒木!』

誰も居ないはずの教室でいきなり名前を呼ばれた

でも今日何度も聞いた聞き覚えのある声だ

声の主は先生だった

『お前の鼻、赤くなってなくて良かったな』

そう言ってわたしの顔を覗き込んでいた



…ドキン…



何だろうこの胸の痛み

心臓がドクンドクンと高鳴るのが自分でもわかるくらいだった

『あれから鼻血が出たんだからね!』

変な思いを悟られまいと笑顔で冗談を言った

『うそ、マジで?』

『うそだよーん』

『からかうなよな。心配してたんだぞ』

先生は笑顔になった

心配?

心配してくれたの?

たったあの一瞬の出来事でしかないのに

わたしは笑いながら自分の心臓のドキドキと必死に葛藤していた

…ドキン…

わたしの心の中はどうしちゃったんだろう

この感覚、久しぶりだ

これは…“恋”なの?

なぜこんないきなり?

わたしの気持ちは何に惹かれているの?

わたしはしばらく恋を休んでいたはずなのに

恋に臆病になっていた

でもどうして今なの?

どうして先生なの?

『何でわたしの名前知ってるの、先生』

さっきのHRだけで覚えてくれたの?

『このクラスの中で一番最初に話しをした生徒だったからな。しかも始業式より前にな』

先生は笑って言った



だめだ…わたし

“恋”をしてしまった

絶対に、恋なんてしちゃいけない相手に

やめなくちゃ

わたしが、辛くなるだけ

好きになっちゃいけない
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