無口な猫の手懐け方法。
「はい」
と男は言い、私が差し出す手の平にポトッとレモン味のアメを落とした。
私はそのアメをすぐさま袋の包みから取り出し、まだ微かにグレープの味が残る口の中へ、放り込んだ。
コロコロ。
口の中でレモンの味がする丸いアメを、舌で転がす。
美味しい。
「あれ? 琴美。人から何か貰ったら、何て言わないといけないんだっけ?」
「…………。」
「琴美?」
コロコロと無言でアメを舐め続けるが、男はそんな私を見逃さない。
「こーとーみー?」
「…………あ………りが……と……。」
私が発した音は思いのほかバラバラとしていて、ちゃんと言葉になってはいなかっただろう。
自分でも上手く聞き取れなかった自身の声。相手にはもっと聞こえなかったと思う。
しかし男は優しく笑い、
「よく出来ました。」
と、私の頭を軽く撫でた。