初恋-はつこい-
「あ、あれ。

 香坂君じゃない」


杏奈の指差す方向に

圭輔が真由をじっと見て立っていた。


その視線に戸惑いながらも、

真由はゆっくりと圭輔に近寄った。


「お疲れ」


表情一つ変えずに圭輔が言う。


「あ、ありがと……」


真由は素直にお礼を言った。


すると圭輔は

真由から視線を少し外し、

「演奏、……良かったよ」

と顔を赤らめながら言い、

その場を去っていった。


圭輔からの不器用な言葉が、

真由にとって

一番のプレゼントになった。


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