初恋-はつこい-
「おはよー、杏奈」


マンションの入口で待つ

杏奈に元気に声をかける。


「あ、おっはよ、真由」


杏奈もまた

これ以上ない程の笑顔で

こたえる。


この日が

高校入試だという事を

忘れてしまいそうだ。


いや、忘れてしまうのではなく、

お互いに意識しないように

あえて明るくしているのだ。


そして真由と杏奈は

並んでゆっくり歩き出した。


「昨日、寝れたー?」


杏奈が軽い気持ちで問いかける。


真由は一瞬表情が曇ったが、

すぐにいつもの顔に戻し、

「ううん、全然。

 なんか遠足前って感じで

 ふわふわしちゃって」

と無邪気に言った。


それから暫く緊張と不安からか、

お互い何も声を掛けず

ただただ高校へと

歩みを進めていた。



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