114歳の美女
 瓢箪をあしらった夫婦茶碗。


 薄紺色の瓢箪。ひと回り小ぶりの薄赤色の瓢箪。


 ときは二つのご飯茶碗を交互に見ている。


 (これを二人で食べれば、さぞかしご飯もおいしいに違いない)


 ときは心の中で、智也と仲良く夫婦茶碗の中のご飯を食べている風景を想像していた。


 (いやあ~、恥ずかしい)


 ときが思わずこの言葉を口から発しそうになって、その言葉を慌てて飲み込んだ。


 智也はときの視線の先が夫婦茶碗と知って、少し照れ臭い思いを味わっていた。


 (色よい返事をくれさえすれば、帰りにプレゼントして上げるから)


 智也は赤い瓢箪の茶碗を見詰めながら、心の中で呟いた。



 二人が店を出て坂道を歩いていると、小さな子供が走って来た。

 子供は階段に足を取られ、二人の目の前で転んだ。

 「うわあ~うわあ~うわあ~」


 子供がけたたましく泣き始めた。






 
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