114歳の美女
 寛道がときの部屋に入って来た。


 「ごめんやで」

 ときが寛道の顔を見るなり頭を軽く下げた。


 「何がですか」

 「お家はんはうちの事を気にして葬式を・・・。うちが葬式になると、余りにも泣くもんで・・・。悪かったなあ。ごめん。ごめんやで、寛ぼん。この通りどす」


 ときは両手を合わせて、大粒の涙をぽろんとひと粒落とした。


 「とき姉さん、違う。それは、違う。母は派手な事が嫌いなだけです。僕だって、普通の葬式なんか、まっぴら。むしろ、葬式をしなくって有り難い位です」


 寛道が左手を振って、ときの言葉を打ち消した。

 「優しいなあ。救われた。寛ぼんと話をして、へこみが少し膨らんだかも」

 ときの気持ちが少し軽くなった。


 「気にせず、元気になってもらわんと」
 「ありがとう」

 「母はとき姉さんの事を、僕の事より心配しているのだから。僕も複雑ですよ」


 そう言って、寛道が一通の手紙を、ときの前に差し出した。





 
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