114歳の美女
 「そちらはんは、きつい冗談がお好きどすな」


 花香は運転免許書を見ても、生年月日を信じる気配はなかった。


 ときは笑った。と、言うより老いた女を嘲る事で、憂さを晴らしたかった。自分の若さを見せびらかす事で、遣る瀬無い心に慰めを与えたかった。


 思い切り見くびる相手には、花香が最適の標的だった。

 「お酒は何に」

 花香がいつもの顔で言った。

 「ビール。それにお冷も」

 花香がビールと水、そして酒の肴をカウンターの席に置いた。そして、ときの顔を盗み見た。


 (綺麗だ。女が見とれるほどに)


 (憎い。美貌が。いいえ。その若さが。その皺の無いきめの細かい肌が。弾力が。八つ裂きにしたいほど、憎い。5年ほど前に来た時よりも、むしろ今の方が若いのは、何故?何故?何故?私が40過ぎれば、めっきり皺が増えたと言うのに・・・。何故?)


 花香が、ときに心の中で問いただした。


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