114歳の美女
 「でもあのお婆ちゃん、かつらを放り投げた時は、びっくりしたな」
 
 「うちが悪いんどすわ。お婆ちゃん、堪忍え」

  ときがお婆ちゃんがいる方向に向って、両手を合わせた。
 
 (勝気な癖に、優しいのだから)
 
 そんなときを、智也は目を細めて見詰めていた。
 

 ときが橋の中程まで歩いて行った。
 花街に架かる風情ある小さな橋。

 花簪とだらりの帯がよく似合うとき。
 この二つは、相性が抜群。


 智也はこの橋が、長い年月ときが来るのを、今か今かと待ち焦がれているように思えた。


 思わず、携帯電話をポケットから取り出すと、智也がシャッターを切った。


 カシャ。

 カシャ。

 カシャ。


 「綺麗だ。モデルみたいだ。笑って・・・。そう。あと一枚」


 智也がカメラマン気取りで、夢中になってシャッターを切った。





 
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