かくれんぼ、しよ?





「わっ」


ぼーっとしていたら、足元の小石に躓いてしまった。


前につんのめり、手のひらを擦りむく。


こんなことしてる場合じゃないのに……!



「大丈夫か?」


「ご、ごめん!大丈夫!」


すぐに立ち上がり、再び走り出そうとした。



「ちょっと待て、血が出てる」


「大丈夫だよ!これくらい……」


ユウイチくんは、カバンの中に手を突っ込み、ハンカチを取り出した。


「ほら、これ握っとけ」


「ありがと……」


半ば強引に渡され、手に取った。



……やっぱり大丈夫。ユウイチくんは、大丈夫。信じて、いられる。



ハンカチを手のひらに巻きつけようとしたところ――拙く刺繍された文字が目に入った。


ガタガタで、アンバランスなそれ。


辛うじて読める――『ユウイチ』の四文字。



「ユウイチくん、これって……」


「ああ、昔、ユミがやってくれたんだ」


「え、えっ!?そんな大事なもの、受け取れないよ!」


「いいって、持っとけよ」


「ダメダメ!返す!気持ちだけありがと!」



強引に、ユウイチくんのカバンの中に押し込んだ。


「なんだよ、べつにいいのに」


ユウイチくんはそう言って笑うけど――そんな、ユミちゃんの形見同然のもの、汚せないよ。



……ふと、何か引っかかるものを感じた。


ユミちゃん、といえば――さっき小屋でのカンノさんの話で、『鬼』は一番怖いものの姿で現れるって言ってたような……。


それが、ユウイチくんにとってはユミちゃんだとか……?




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