かくれんぼ、しよ?
「……はぁ、はぁ」
玄関から一番離れた和室に入った。壁にもたれて呼吸を整える。
……これから、どうしようか。
このまま逃げ続けても、いつか捕まるだろう。
立ち向かわなければならないが、手段が思いつかない……。
他にも、不安は履いて捨てるほど浮かんでくる。
ミクは、本当に村を出られたのか?
マコトは、無事なのか?
……ミヅキは今、どこにいるんだろうか。
自分の父親が、あんなことをしていたと知っているのだろうか。
……文句一つ言わず、一緒に住んでいたんだ。知っているわけないよな――と、納得しかけたが。
おれがやぐらの上で見せられた記憶は――誰のものだったんだ?
霧島賢司がサツキを殺した現場を見ていた子ども。
おれがその子どもの記憶を見る前、ミヅキは『見せてあげる』って言ってなかったか?
……もしかして、ミヅキは……霧島賢司がしたことを、知っていたのか?
「うん。ぜーんぶ、知ってたよ」
声のした方へ振り向くと、いつの間にかミヅキが立っていた。
「知ってた……って、言ったか?」
「うん。おとうさんがサツキを殺したこと、はじめから、知ってた。見てたの、ぜんぶ」
やっぱり、あれは、ミヅキの記憶……!
「だったら、どうして……」
霧島賢司の記憶では、ミヅキはごく普通に霧島賢司に接していたように思える。
「だって、ああしないと、ミヅキのことを引き取ってくれる人がいなかったの」
……そんな、理由で――こんな幼い子が、姉の亡くした悲しみも、姉を殺された憎しみも、すべて隠して生きていたのか?
――そもそもこの村は、はじめからおかしかったんだ。
異常に閉鎖的。
おそらく村でただ一人の医者である霧島賢司に対しての、よそ者という蔑称。
子どもの増えすぎ。未来を考えない大人たち。
霧島賢司が良い奴だとは言わないが……おれは、ただの人殺しにも思えない。
ある意味では、夕霧村一番の被害者じゃないか?
しかし、それは、ミヅキも同様。
「ミヅキ、ほんとはね、おとうさんのこと嫌いだったの」
……そうだよな、憎むしかないだろう。
「でもね、最初はね、おとうさんのこといじめる村の人たちが嫌いだったの」
……そうだったんだな。霧島賢司が村人に受けていた扱いも、ミヅキはわかっていたんだな。
「だからね、みんないなくなっちゃえばいいなって思ったの」
寂しげに俯くミヅキが、ユミの姿と、重なって見えた。