かくれんぼ、しよ?
……いつからおれは、おかしくなってしまったのだろうか。
いつからおれのこころは、狂気に食われてしまったのだろうか。
もし許されるなら――サツキに謝りたい。
そう思っていた頃もあった。
……が、今のサツキはサツキじゃない。
おれが招いたことだとしても、アレに殺されたくはない。
――いくら狂っているとしても、大いに結構。
生き永らえて、いつか、この村を出てやろうじゃないか。
……その時は、次こそ、ミヅキと一緒に。
首を傾げたままこっちを見つめているミヅキの頭を撫でようと、手を伸ばした時――
「ケンジさん?」
扉を開けて、サツキが部屋に入ってきた。
……ケンジさん、だと?
『鬼』と化してからのサツキに名を呼ばれたことは、ただの一度だってない。
――そうか、ミヅキがいるからか。
殺気を隠しているのだろう。証拠に、サツキの笑みは不気味に歪んでいる。
「ケンジさん……わたし、会いたかったのよ。ずっと、ずーっと」
「サツキ……おれもだよ」
口から出た言葉は、半分は、本当だ。
サツキが抱きついてくる。
「今まで……何だか悪い感情ばかりで、自分をコントロールできなかったの……ごめんなさい。でももう、大丈夫よ、ほら、ね?」
そう言っておれを見上げたサツキは、生前と同じように、ただ純粋に笑っていた。
……なんだ、どういうことだ。
もしかして、マコトを食って……『鬼』の気が済んだのか?
だとしたら、今ここにいるのは、本当のサツキなのか?
「ケンジさん……本当に本当に、愛してる」
サツキは、よりいっそう強く抱きしめてくる。
「ああ、おれも……」
おれも、サツキの背中へ手を回した。
「愛しているよ、サツキ」
そんなおれの台詞と共に、サツキの悲鳴が響き渡った。