かくれんぼ、しよ?
頭で理解する前に、足が動いていた。
恐怖も忘れ、ただ、転がるように崖を下った。
ミクとマコトが何か言っているが、それに足を止める余裕はなかった。
さっきのあれは、あの姿は、確かに、ユミだ。
なんで――どうして――ユミは、去年……
考えが頭の中を駆けめぐるが、整理している暇はない。
そこらへんの草葉や枝で手足が傷付く。
痛みを理解する前に、前へ、前へ、と走った。
やがて斜面が終わったと思ったら、目の前には、木々に括りつけられて、注連縄が辺りに張られていた。
その異様さに、思わず、足が止まる。
霧で、注連縄がどこまで続いているかはわからないが、かなり遠くまでずっと張られているように見える。
――ユミの姿は、見えない。
息切れで肩を大きく上下させながら、辺りを見回しても、ユミは見当たらない。
ユミどころか、誰かがいるような様子はない。
――冷静になると、やはり、見間違いだったのかもしれない。
普通に考えて、ユミがこんなところにいるわけない。
この世のどこかにさえ、ユミはもう――
「お兄ちゃん」
存在していない、はず、だった。
しかし、そこに、ユミがいた。
注連縄の向こう側、少し離れた場所でこちらを向いて立っている。
「……ユミ」
気付いたら、まるで吸い込まれるように、おれはユミの元へ向かっていた。
どこか遠くで、ミクとマコトがおれを呼んだ気がした。