昨日、私の心を奪ったのは彼でした。
作法、身なり、余すところなく相手を不愉快にさせず、
学問においても名を馳せ、
もちろん茶華道でも、その実力は大したもの。
何においても、完璧だ。
・・・ただ一点を、除いては。
『乃梨子ひどいよぉ~…アタシが飢えて飢えて死にそうになってるって言うのに~。』
「あら、そんなことありませんわ。余裕を持って起床なさらない沙希がいけませんことよ?」
『そうだけどさぁ~……腹減った…。』
私の隣で、憂鬱そうに溜め息をついたのは、友達でもあり、幼なじみでもある彼女。
上川 沙希。
上川グループのお嬢様。
…といっても、沙希はお嬢様というよりは、おてんば娘のような感じで。
いつも食べる事か、運動することしか頭にないんですの。
『学校嫌だ~!勉強なんて嫌いだーーっ!!』
「…恥ずかしいですわ。」
街の真ん中で、叫ぶなんて。
沙希の考えてる事は、正直、理解できませんわ。