昨日、私の心を奪ったのは彼でした。
(何だ、この子…。あのサルを、一言で収めやがった…。)
それを見ていた裕也は、黙々とオムライスを口に運ぶ乃梨子を見つめていた。
初めてだったのだ。
いつもうるさくて横暴な沙希を、名前を読んだだけで丸めこんだ人物を――。
到底、先日、自分が助けた女とは思えない。
「沙希、ご飯粒が口元についてますわ。」
「えっ!?ど、どこ!?」
「――ここ、」
かと思えば、沙希を見つめる乃梨子の顔は、穏やかだった。
女ってのは、よくわかんねぇな。
それより――
「ごちそうさんっ」
「ごちそうさまでした。」
この女、俺の料理食べて…何も言わなかったな。
裕也にとって、乃梨子が何も言わなかった事が、妙に心に引っかかった。
「美味かったぜ、裕也!」
「ぁ、ああ…。」
食べ終わってもなお、乃梨子は頬笑みを浮かべるだけだった。