昨日、私の心を奪ったのは彼でした。



(何だ、この子…。あのサルを、一言で収めやがった…。)


それを見ていた裕也は、黙々とオムライスを口に運ぶ乃梨子を見つめていた。

初めてだったのだ。

いつもうるさくて横暴な沙希を、名前を読んだだけで丸めこんだ人物を――。


到底、先日、自分が助けた女とは思えない。


「沙希、ご飯粒が口元についてますわ。」

「えっ!?ど、どこ!?」

「――ここ、」


かと思えば、沙希を見つめる乃梨子の顔は、穏やかだった。

女ってのは、よくわかんねぇな。


それより――


「ごちそうさんっ」

「ごちそうさまでした。」


この女、俺の料理食べて…何も言わなかったな。


裕也にとって、乃梨子が何も言わなかった事が、妙に心に引っかかった。


「美味かったぜ、裕也!」

「ぁ、ああ…。」


食べ終わってもなお、乃梨子は頬笑みを浮かべるだけだった。



< 22 / 34 >

この作品をシェア

pagetop