昨日、私の心を奪ったのは彼でした。
「あ…良かったですわ。」
「ッ――!」
ふわり、と微笑んだ乃梨子に、裕也は目を奪われた。
こんなに優しい表情は、初めてみたのだ。
「では、裕也さん。ありがとうございました。」
「ぇ、あ――」
「オムライス、結構なお手前で、美味しかったですわ。」
「っ…!!!」
綺麗なお辞儀をした乃梨子は、甘い香りをその場に残し、店を出た。
カランカラーンッ
ドアが閉まって、乃梨子の姿が見えなくなるまで、裕也はその場から動けないでいたのだった。
(あの子…やってくれる。)
スタッフ控室に戻った裕也の耳は…これ以上に無く、赤く染まっていた。
「はぁー…。」
(あれは反則じゃなきゃ、一体何なんだ。)
心なしか、顔も赤いような気がした。