昨日、私の心を奪ったのは彼でした。
「……はぁっ」
まだ少し肌寒く感じる夜道の中で、乃梨子は溜め息をついていた。
いつも忙しさに追われる乃梨子が、ひどく疲れている様子だった。
(いけない、いけない…幸せが逃げちゃう)
そう思いながらも、溜め息をついてしまう乃梨子。
理由はたくさんあった。
ひとつは、沙希に一日中しつこく裕也とのことを聞かれた事。
ひとつは、そんな中、男子の対応にも追われていたこと。
ひとつは、学校を終えた後、急なお茶会がひらかれたこと――。
そして今、乃梨子はまた一人で、お茶会が行われた会場から、自分の家へ歩いて帰っている最中だった。
(今日はいつもより早く休息した方がいいかもしれませんね…。)
そう思った時だった。
―――「……?」
乃梨子のすぐ横に、配達便のトラックが停まったのだ。
偶然かと思いきや、窓が開き、その先に見えたのは――…
「裕也、さん…?」
「――よう」
宅配業者の恰好をした裕也だった。