昨日、私の心を奪ったのは彼でした。
「俺の家、貧乏だから。親父は小さい頃に死んでてさ。俺が長男で、下に妹が二人いる。母さんにばっか負担掛けられねぇから、3つくらいバイトしてんだ。」
「そんな、に…?」
裕也は、乃梨子の周りにはいない人間だった。
今は8時30分。
まさか――
「今から、バイトだったのでは――」
「え?ぁぁ、まぁ、そうだけど。」
「っ、停めてくださいっ!!」
キキ――ッ
次の瞬間、トラックの、急停車特有の音が響いた。
バタンッ
「えっ?あっ、おい!」
「私――」
「え?」
「私っ…バイトを中断してまで送ってもらいたくありません!!」
「ッ――」
停車したトラックからすぐさま降りた乃梨子は、大きな声でそういった。