昨日、私の心を奪ったのは彼でした。
「私っ…裕福な暮らしをさせてもらってるから、あなたの苦労とか、悩みとか、そんなことは分かりません!でも、でも…任された仕事は、お給料が出るような仕事は、ちゃんと全うしなきゃいけないってことくらいはわかります!」
「っ……」
裕也は驚いた。
世の中の事は何も知らない、幸せだけを知っている、ただのお嬢様だと思っていた乃梨子に、まさか説教されるなんて、思ってもみなかったからだ。
「それに、そんなにバイトして、身体は大丈夫なんですか?」
「え?」
さらに驚いたのは、乃梨子が自分を心配しているということだ。
「裕也さんの家計が苦しいのは承知です。お父様が他界され、お母様一人で家族を養っていくのにも限界があるのも承知のことです。だから、裕也さんが働かなきゃいけないし、他人の私がこんな事言うのは失礼だとは分かっています。けれど――…裕也さんはまだ未成年なんですよ?こんな夜遅くまでバイトなんて――やめて、ください。」
「っ――!」
そう言った乃梨子の表情は…今にも泣きそうだった。
裕也の事が心配で心配で、溜まらなかったのだ。
「そうじゃないと――いつか、いつか裕也さん…体調を崩してしまいます。」
そうなってからじゃ遅いのだ。
それを、乃梨子が一番――知っていた。