昨日、私の心を奪ったのは彼でした。
――乃梨子は、いつものように下校する乃梨子を出待ちしている男子生徒を蹴散らし、先週、やっと咲き誇った桜並木を歩いていた。
風と共に舞っていく桜の花びらを目で追いながら、時折微笑む。
花は綺麗だ。
いつも私を癒してくれる。
桜並木の途中にある噴水に差し掛かったとき、若衆が噴水の近くでたむろっているのが見えた。
どうしましょう…。
正直、男嫌いの乃梨子にとって、あーいった“不良”と呼ばれる輩には近づきたくはない。
でも、そこを通らないと、家には帰れない。
「きっと、大丈夫ですわ。」
小さく、そうつぶやいた乃梨子は、さっきとは違い、足早に歩き出す。
でも、きっと大丈夫なんて言葉は、甘すぎた。
『うわっ、ちょー可愛い!何、条中学園高校――って、金持ち高校じゃん!!すっげぇ!!』
通り過ぎた直後、やっぱり絡まれてしまった。
舌っ足らずな男の口調が、不愉快さを増す。
『ねぇねぇ、俺たちと遊ばねぇ?』
『遊ぼーぜぇ!金ならいっぱい持ってんだろ?』
「っ、やめてください!汚らわしいですわ!!」
ついに、男が乃梨子の肩に手を置いた瞬間、乃梨子が叫んだ。
『ヒュー♪“汚らわしいですわー”だって!』
『ちょーお嬢様じゃーん!!』
『なぁなぁ、いけんじゃねぇ?』
『アタリだな』
『クククッ、お嬢様、俺たちと遊びましょっ』
高校の男子生徒とは違う。
乃梨子に絡んだ男たちは、乃梨子が何を言ってもからかうだけで、ついには無理矢理手を掴まれてしまった。