昨日、私の心を奪ったのは彼でした。
「傷――…」
『良い、』
「・・・っ」
彼の傷へと伸ばした手を、掴まれた。
ドクンッと鼓動が鳴ると、ゆっくりと掴まれた手が離れていく。
『良いから。…慣れてるし、こんな傷。』
そう言って、彼は噴水の水に手を浸し、血で濡れた挙を洗い流した。
どうして、私――…
『アンタ、あっちの大きな家のお嬢様だろ?』
「え…、」
『よく着物着てどっか行くの見かける。アンタ、お嬢様なんだからさ、1人で出歩かねぇ方がいいんじゃねぇの?』
「・・・。」
確かに。
彼の言ったことは正しかった。
現に、乃梨子は今ままで泰蔵に送り迎えをつけろと言われていた。
だが、乃梨子は断っていたのだ。
別に、一人で出来るからと。
今日、からまれたのは、自分のせいだった。