分かんない。
「俺、さっき、好きな奴の事
忘れさせるとか
滅茶苦茶強気な事言ったけど
ごめん……。
そこまで自信もないんだ。
でも俺、全力でお前に尽くしたい」
夢のような小説の台詞は
あっという間に現実へと戻された。
あのようなことは、
相手の気持ちを完全に
理解してからでないと、
勇気を出しにくいものだと思う。
このくらいの気持ちで、
田所は私を想ってくれている。
これなら……川上の事も
普通に友達としてみられるように
なるかもしれない。
「さっきの田所、
恋愛ゲームの台詞みたいだった」
私は先程思ったことを呟いた。
笑ってしまいそうになるのを
堪えながら。
「言うなよ、恥ずかしい」
田所は照れ臭そうに言うと、
ようやく体を離した。
田所の顔は、とても赤みがかっていた。
「あ、田所の顔が赤ぇ。
まじで赤ぇ」
私はそう言って笑ったけれど。
「はぁ?お前も赤ぇよ。
リンゴみてぇに赤ぇよ。
ああ、食いてえ」
私の顔が赤いというのは、
恐らく本当だろう。
だけど、食いてえ、と
言われたことが、
照れ臭くて、恥ずかしくて
私はうつむいてしまった。
キーンコーンカーンコーン……
朝の始まりの鐘が鳴った。
そういえばここは、学校だった。
「あ、やべぇ。
中学って予鈴が本鈴の
5分前じゃなかったっけ?
今から行かねえと
時間内に席につけねえかも!
行くぞ、神埼!」
田所はそれだけ言うと、
私の手を握り締め、
屋上を素早く降りた。
教室の近くになると、
田所は手を離した。
教室に入れば、ほとんどの生徒が
座っていた。
はりつめた雰囲気を感じる。
「おはよ」
川上が座る瞬間に挨拶をしてきた。
私も返す癖がついているので、
気付いた時には挨拶を返していた。
朝の用意をしていると、
川上がこちらに身を乗り出して
こちらを見ていた。
「な……何?
私の顔に何かついてる?」
用意が済むと、私は
川上の方に振り返り、
いつもの会話の
体勢をとっていた。