分かんない。
川上が出ていった事を確認すると、
田所は私の耳を借り、耳打ちした。
「あのさ、神埼。
俺らが付き合ってるって事、
黙ってた方がいい?
それとも、人目も気にせず
いちゃつく?」
いちゃついたい。
そう答えたいけれど、
心のどこかではやっぱり
川上の事を考えてしまっていた。
川上に見られたら……。
きっと彼ならおめでとうと
言ってくれると思う。
違う、違う。
私が欲しいのは
そんな言葉ではない。
私が本当に欲しいのは、
川上からの、好きだよという言葉…。
「うーん、田所はどうしたいの?」
田所はその言葉を聞くと、
僅かに顔を赤らめて、
指で唇をいじりながら喋った。
「えっ、俺?俺はまだ
そういうのは判断してなくてさ。
神埼の答え、聞いてからにしようかな
って思ってた。
うーん、俺的には
堂々と付き合いたい。
言っちゃ悪いけど、お前のいう
好きな奴にも見せつけたいなって……。
はは、最低だな、俺。
ごめんな?こんな奴で」
田所は申し訳なさそうな表情を
浮かべた。
「ううん、いいよ。
そこまで言われて、
嬉しくない人なんかいないからね」
私は微笑んでそう答えた。
だけど、うまく笑えてなかった気がした。
「付き合ってる事を
黙っておくかは……
もう少し考えさせて」
「分かった」
川上がいるから、
私は今決められないのだと思う。
私の事を好きだと
言ってくれているのに、
申し訳ない。
キーンコーンカーンコーン…
2時間目の鐘が鳴る。
それを聞いて、慌てて
席に座り込む生徒たちの中に、
1人、 私の恋した人が
ゆるりと席に座った。
その時の川上の顔は
どこか切ない顔をしていた。
いつもの話し相手が田所にとられたから
ショックでも受けているのだろうか。
この授業が終わったら話しかけよう。
………だけど。
私から話しかけようと思ったけれど、
またしても田所に話しかけられて、
川上と話をすることが出来なかった。
話、させてよ……。