分かんない。
結局あれから一度も
川上と話すことは出来ず、
放課後となってしまった。
今は川上がユニホームに着替えている。
だけど隙も与えないためか、
田所は私にずっと話しかけてくる。
「家何処?メアド交換しよう。
電話番号も!」
偶然かわからないけれど、
私と田所の家の通学路は
同じ方向だったのだ。
じゃあ一緒に帰ろっか!と、
田所は私の手を引く。
待って、まだ川上と話せてない……。
「ま、待って!
忘れ物したから取りに戻る!
田所はそこで待ってて!」
「えぇ……、なんで?
俺も一緒じゃダメ?」
田所は少し切なそうな顔をした。
まだ付き合いたてで
慣れていない彼氏だということが
一目見てわかる。
「いや……だめって事はないけどさ…、
わざわざついてきてもらわなくても
私は一人で大丈夫っつうか…。
まあ、一人でいってくるから
待ってて!」
そのまま私は田所の返事すら聞かず、
教室へと駆けていった。
教室にはまだ川上がいた。
というか川上しかいなかった。
彼は何故だか悩んでいるような表情で
自分の席に座っていた。
彼は今此処で一人、
何を思っているのだろうか。
時間がない。
私は川上に声をかけた。
「川上」
「………っ」
薄暗く夕日に染まりかけた教室で、
川上は私の姿を確認すると、
微かに息を呑んだ。
ガラッと立ち上がり、荷物を持つと、
私を教室の外へ押し出して、
無言のまま教室の鍵を閉めた。
そして彼は無言を保ったまま、
手に持った教室の鍵を
返しに行こうと歩み始める。
どうして無視するの?
私が田所と話してたから?
「かわ……かみ……」
彼は颯爽と早足で消え去った。
あんなにも冷たい川上は初めて見た。
そして、恐怖も感じた。
何をそんなに怒っているの?
「かーんざきっ」
何も知らない田所は、私の両肩を持つ。
「あ……遅れてごめん」
「いいよ、忘れ物はとって来れた?」
「うん……」
「うし、じゃあ行こっか」
廊下には誰一人歩いていなかった。
田所は私の手を握ってきた。
唯の男の温もりを感じる。
私は本当に川上の事を
忘れ去る事は出来るのだろうか。