分かんない。
「なあ」
一歩押され、私も下がる。
「いいだろ?」
また一歩押され、私も下がる。
社交ダンスの様に後ろへ下がっていく。
「君と回りたいんだよ」
背中に冷たい壁が当たった。
もう、逃げ場がない。
「嫌ならキスしちゃうよ?」
両手も壁に押さえつけられる。
やべぇ、あいつ変態だと
ぐるかと思われた男たちは去った。
え……………?
キスなんて、圭祐ともしたことがない。
ファーストキスをこんな見知らぬ男に
奪われるのだろうか。絶対に嫌だ。
男の顔が首をかしげながら、
近づいてくる。
私は必死で横を向いたりして、
男の唇を避けようとした。
今度は両手で頬を掴んで
固定されたせいで、
更に逃げる事が不可能になる。
もう、逃げられないんだ……。
「美佐!!」
突然、私を呼ぶ声がした。
私がピクッと反応すると、
男も反応して、
この声のした方を見た。
私から見て左側の所に、声の主がいた。
「美佐に何してんだ?」
その声は酷く怒りで満ち溢れていた。
「あぁん?何って……。
キスしてんだよ。つかこいつお前の女?」
「ああ、そうだ。俺の女だ。
いいから離せよ。
人の女に手ぇ出してんじゃねえよ」
男は、じゃあ要らねえよ、というと
私を声の主の方に押し付けて、
立ち去った。
先程とは違う優しげな声で
声の主の腕の中にいる私を慰める。
「よしよし、怖かったろうに……。
見つかってよかった」
その胸に顔を埋めていると、
なんだか急に安心してしまって、
涙がどんどん溢れてしまった。
顔は上げないつもりだ。
涙声になりながら、
先程の恐怖を声の主に訴えた。
「うぅ……っ、怖かった…っ、
川上が来てくれなかったら
ファーストキス奪われる所だった。っ」
「まだキスしてなかったのか……」
泣き止もうとするけれど、
嗚咽が止まらず、苦戦する。
別にまだ泣いてても構わない、
顔は見ないから、と川上は
言ってくれるけれど、やっぱり悪い。
嗚咽も薄くなり、落ち着いた頃。
私は涙をきちんと拭いてから
謝罪と感謝の気持ちを込めて、
川上の目を見て言った。