分かんない。
「助けてくれてありがとう。
本当にありがとう。
はぐれちゃって、ごめんね」
「いいんだよ、こうしてお前が
無事でいるわけだしな。
でもお前を名前で呼ぶのは
がちで恥ずかしかったなぁ〜。
夜だったからいいけど
昼間だったら顔真っ赤なの見えてっし」
「あはは、そうなんだ。
でも川上、好きな人いるんでしょ?
本当ごめんね、私の事なんか
名前で呼びたくなかったよね。
しかもさっきなんか
抱いてまでくれてたし……」
「いいんだよ、別に。
友達でもお前は俺にとって
親友に等しいからな。
そこまでして助ける価値はあるよ」
また川上は私を抱き寄せた。
「こういう時くらいは、
俺に甘えてもいいんだぞ。
田所には、内緒な」
「うん……ありがと」
私たちはしばらく、
そのままの体勢でいた。
それにしても本当に心地がいい。
どうしてこの場所は
こんなにも落ち着くのだろうか。
また川上を好きになってしまいそうだ。
いや、好きかもしれない。
だけど私には圭祐がいる。
あれ……?
「さて。こうしてても時間の無駄だしな。
そろそろ見せでも回ろうか」
「そうだね」
私は川上の腕から離れると
彼の隣を歩こうと、
彼が歩くのを待った。
けれど彼は歩かない。
「でもやっぱ心配だな」
「何が?」
「お前がまた
迷子になったらどうしようって」
うっ……、と思わず声が出る。
図星だからだ。
「だからさ。手、繋ご」
私は思わず目を見開いた。
「えっ……」
「またはぐれて
あんな目に合われるのも嫌だしな」
なるほど、そういう意味か。
確かにそうした方が確実に安全だ。
私が川上に差し出される手を握ると
彼はようやく歩き始める。
後でようやく川上の兄さんたちと
合流出来たけれど、
どうして手を繋いでいるんだとか、
付き合い始めたのかだとか
2人共興奮気味に問い掛けてきた。
川上が先程の事を語ると
2人は小さくなって、
ごめん…そんなつもりじゃなかった、
と謝ってくれた。