分かんない。



急いで席につくと、
機嫌の悪そうな城谷が
足を組んで座っていた。
私はそんな城谷を無視した。
授業は何事もなく始まった。
数十分ほどして、
前からルーズリーフを2つに折った紙が
回されてきた。表紙には、
「一之瀬に回してくれ」という文字。

「一之瀬ぇ〜…」

私は小さな声で、
一之瀬の名を呼び、手渡した。
幸いな事に、授業中
城谷は顔を机に伏せて眠っていた。
隣で紙を開く音がする。
多分圭祐からの手紙だ。
少しすると、一之瀬は
圭祐からの手紙を横に、小さな紙に
文字を書き始めた。返事だ。

「神埼」

私を呼ぶ小さな声がして、
一之瀬の方を見る。
一之瀬は先程の小さな紙を
私に手渡しながら、
もう片方の手で親指をたてた。
大丈夫だ、と伝えてくれているのが
一目で分かった。
小さな紙には「田所に頼む」
と書かれていた。

「気を付け、礼」

私の号令で授業は終わり、
いよいよ作戦が実行される事となった。
なんだか私一人の為に、
一之瀬にまで迷惑をかけて
申し訳ない気がする。

城谷が廊下に出た頃。

「本当私のせいで迷惑かけてごめんね」

一之瀬は余裕の笑みを浮かべた。

「大丈夫だって。友達だろ?
困った時はお互い様さ。
俺が教科書とか忘れた時とか
色々世話になってるし、
そうじゃなくても
俺はお前を助けたいと思うよ」

私はなんだかその言葉が、
友達として、の意味を
表していないような気がした。

「あ、そうだ。田所に貰った手紙、
見せてやるよ」

そういうと一之瀬は、
ポケットから2つに折った
ルーズリーフを私に差し出してきた。

「あ、ありがと」

私はゆっくりその手紙を開いた。
そこには夏祭りのあの事。
川上が助けてくれたこと。
その時の写真を圭祐が持っている事。
今日転入してきた
城谷真稀があの男だという事。
私が再び城谷に
狙われているということ。
そして、自分だけでは
守りきれなさそうだから
助ける事を手伝ってくれ、
ということが、男の子の字で
一生懸命に書かれていた。




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