分かんない。



あれからはほとんど何事もなかった。
圭祐や一之瀬のオーラが
私に近づかせなかったのだろう。

今は席替えをして、
私と城谷は離れている。
城谷は私以外の女子と
話すつもりがないらしく、
男子としか話をしていなかった。
私の隣は、また一之瀬で
奇遇だね、と更に仲良くなっている。

そろそろ体育祭だという事で、
坂口先生が係決めの話をしていた。
私と圭祐は同じ記録係となった。
川上は大人しい女の子と
同じ係になっていた。

色々体育祭の練習が重なって
汗だくになってしまう。
汗臭くないかが心配で、
圭祐が近づいても逃げてしまう。

ある時、圭祐が私の手首を掴んで
逃げられない体勢をとった。
制汗剤もつけていないのに!

「待てよ、なんでこの前から
体育祭の練習の後は
俺から逃げてんだよ」

ちょっと不貞腐れた様な声だった。

「いや……その」

「俺の事が嫌いになったか?」

「そんなんじゃないよ!」

「じゃあなんでだよ」

圭祐は少し寂しそうな瞳を
こちらに向けてきた。
心臓がどきりと跳ねる。

「汗かいてるから……」

「だから?」

「臭いかなぁって。
嫌われそうで逃げてた、ごめん」

なんだ、そんな事か、と
圭祐は口の角を上げて笑った。

「……っ!?」

ふっと笑ったかと思うと次の瞬間、
私は圭祐の腕の中だった。

「あー、本当だな。
汗の匂いするな」

「でしょ!?だから離して!?」

私は混乱気味に圭祐の腕の中で暴れた。
だけど圭祐の力は予想以上に強くて
びくともしなかった。

「だから、何だよ?」

「えっ……?」

「いいじゃねえかよ。
惚れてたらそれすらも愛しいんだよ」

ばーか、と言って
額と額をこつんと合わせてきた。

「お前らこんなとこで
何してんだよ……」

近くを歩いていた一之瀬が
私たちを見てぼそりと呟いた。

「あっ、一之瀬」

「こいつが俺から逃げてたから
取っ捕まえて聞き出してたんだよ。
そしたら何つったと思う?
汗臭くなってて
嫌われるのが嫌だからって
それだけで逃げてたんだと」

圭祐は呆れた様に溜息をついた。




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