分かんない。



「俺ならもっとお前を
幸せに出来る自信がある……」

思いがけない人からの
思いがけない言葉。
私はその言葉に、唯驚きを隠せず
激しく瞬きをした。

「……ふふ。はははっ」

「…………?」

一之瀬はもう堪えきれない、
と言わんばかりに吹き出した。
もしかして……。

「冗談だよ」

そう言っているけれど、
一之瀬の頬は真っ赤に染まっていた。

「もう……、焦った……。
やめてよ……」

私は深刻な顔をしたけれど。

「あはは、悪い悪い」

小さな子供をあやすかのように
私の頭をポンポンと軽く叩いた。
私も顔が赤いのではないだろうか。

「お、おい神埼。本気にすんなよ?
まじ今顔赤いけど大丈夫か?」

一之瀬は私の顔を見ようと、
下から顔を覗き込んでくる。
その顔がどうにも、中学生とは
思えないほどに色気づいていて
私の心臓をどくんと跳ね上がらせた。
上目遣いで私の目をとらえる。
全てを見透かしてしまいそうな
鋭い瞳から、私は逃れたくなった。
気持ちが揺らいでしまいそうだ。

「神埼?」

「………っ」

一之瀬の名前を呼ぶ声で我に返った。
ところで今は何分だろうか。
随分長い時間がたった気がする。
私が時間を気にしていた事に
気がついたのか、一之瀬は
少し体を斜めにさせてから
あと4分で時間だ、といった。

それはあまりにも短い時間だった。
というかたったあれだけの事で
あんなに長く感じてしまったのは
やはりあの冗談を
本気にしてしまっているからだろうか。

「神埼、そろそろ行こうぜ。
田所も戻ってるだろうし」

「うん……」

走りはしなかったけれど、
位置に戻る時、一之瀬は
わざわざ私の近くを歩いた。

それぞれ自分の位置についた時、
圭祐が物凄い顔で私と一之瀬を
睨んでいた事に、
私は全く気づいていなかった。



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