分かんない。



私は無言で、
まとめてあった荷物を背負うと、
財布の中に入れていた3000円を
彼に差し出した。

「何だ、これ?」

彼は絶望に満ちたような顔をしていた。
そこまでしなくてもいいでしょう……。

「昨日と今日お世話になった分と、
圭祐に奢ってもらったりした分。
足りないなら……また後日持ってくるよ」

「違う、違う!俺はこんな物欲しくない!
お前しか要らないよ!」

なんて、彼は一生懸命に訴える。
金では買えないものとは
正にこれだろう……。

「……お世話になりました」

圭祐の部屋の扉で、
ふと圭祐の方を振り返った。

「短い間、お世話になりました」

それ以上、圭祐は何も言わなかった。

「あら、美佐ちゃん。もう帰るの?」

圭祐の部屋を出ると、
丁度そこには圭祐の母がいた。

「はい。お世話になりました」

「いいえ〜。
圭ちゃんも幸せそうだったし、
私の方こそお礼を言わなきゃ。
ありがとうね」

「え、美佐ちゃん帰るの?」

リビングの方から
彼の兄さんが歩いてきた。
どうやら私達の
会話が聞こえていたようだ。

「はい。短い間でしたけど、
お世話になりました。
ありがとうございました」

「ははは、やだなぁ、美佐ちゃん。
事の終わりみたいに」

「………」

瞬間、冷たい空気が流れた。
私のせいだ。

「あ、あぁ、足止めして悪かったね!
良かったら、またおいで」

「……はい。お邪魔しました」

「はーい。…………ねえ、母さん」

「何?」

「もうあの子はここに来ない」

「えっ……どうして?」

「……俺にはわかるんだ」



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