分かんない。
それから1年ほどの時が過ぎた。
私も会社に馴染み、
神埼の事も忘れかけていた頃だった。
「今日からこちらの部で働く
神埼務さんです」
部長がそう言って、
彼の両肩を持っていた。
「今日からお世話になります、
神埼務です。ご迷惑をお掛けしますが、
何卒宜しく御願い致します」
かつての彼の欠片は
何処にもないように思えた。
聞けば、私より1年前に
この会社へ入社していたらしい。
という事は……。
「宜しくお願いしますね、神埼先輩!」
神埼先輩は私の隣のデスクだった。
神埼先輩はあまり
昔と変わっていなかった。
だけど、皆とは違って
私の時だけ優しかった。
いつになったら私だと、
気づいてくれるのだろうか。
「なあ、明日暇か?」
1年後輩の私にタメ口を使えと言ったり、
とにかくこの人は変わった人だった。
「あー。明日はそういえば休みだね。
仕事がない日は大抵暇だけど。
何、神埼先輩、
飲み会でも開いてくれるの?」
私は冗談のつもりで
いたずらっぽく笑みを浮かべていた。
「ははは、まあそんな所だ。
あと1人は誘う。つーか……」
半分神埼先輩は笑ったけれど、
すぐに真剣な顔をして
私の顔を覗き込んだ。
「先輩扱いやめろって。
結局歳は同じだろ。
ったく……。やっとタメ口が
なくなったと思っても、
先輩呼ばわりだけは直らねえな。
よし、決めた。次先輩って言ったら……」
彼は潤んだ瞳で私を見つめた。
彼の色気が、私の鼓動を早めた。
心臓が暴れている。
もしかしたら……
「ふふっ、そん時のお楽しみだな」
彼は何かを企んでいるようだった。
だけど、私の気分は、とても弾んでいた。