分かんない。



予定より早く起きたから、
いつもより少し可愛く着飾って、
ヘアスタイルもばっちりにした。
少しでも、神埼先輩……
神埼に振り向いてほしくて。

「おー……」

神埼は少し口を開けていた。
驚いているのか、
引いているのか、それとも
可愛いと思ってくれているのだろうか。

「ねえ、もう1人は?」

私が、気になってそう聞くと、
彼は頭をぽりぽりと掻いた。

「あー……それがさ、
来れないみたいなんだ」

という事は、2人きり?
そう考えてしまい、
顔中が熱くなるのを感じていた。

彼が連れてきてくれた所は和個室だった。
畳の香りが漂う少し広い部屋に
美しい花がいけてある。

「わぁ……綺麗……」

私が満面の笑みで喜んでいると、
彼は、そろそろ座れ、と言って、
座布団を指差した。

「素敵。私一回
こういうとこに来てみたかったんだ!
凄く嬉しい、ありがとう!」

心から彼にありがとうと言った。
それから食事をしたり、
他愛もない話をしたりして
有意義な時を過ごした。

後半から私達は、お酒を注文した。

「えー。お酒、飲んだ事ないよ」

反論する私に対し、彼は
いいから飲もう、と言った。
そう言われて私は、
恐る恐る猪口に口をつけた。
なんとなく飲み進めていると
段々気分がよくなってくる。

「うーん。お酒も悪くないかもー」

「お、お前酔いかけてないか?」

「えっ。そんな事ないですよ、先輩」

その瞬間。
彼の空気が一変した。
それにつられて私の思考も停止する。
彼は立ち上がったかと思うと
向かいの席から私の真横まで
歩いてきた。

「なっ、なんですか……」

彼は気持ちが悪いほど
真剣な表情をしていた。
そうかと思えば、今度はしゃがみこんで、
私の顎を掴んで、くいっと上を向かせた。
突然の出来事に私は訳が分からず
ただ混乱するだけだった。
彼は艶かしく微笑むと
鼻と鼻の先がつくくらいに
顔を近づけてきた。

「あっ……の………」




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