分かんない。



「なんだ。誘ってるのか?
お前は酔うとそうなるのか?」

「ち……違います……」

「どうかな。お前、この俺が
気づいてないとでも思ったか?」

「な、なんのこと?」

「バカか。
会社でぶつかりそうになったあの時、
お前は俺を、フルネームで様付けして呼んだ。
それが何よりの証だろう」

私は思わず目を見開いた。

「俺が……。
俺がお前を忘れる訳がないだろう。
お前の返事、聞いてなかったな。
あの時は聞くのが怖かったけど
今なら………。もう1度言う。
俺は…………お前が好きだ」

そう照れて言う彼の顔は
少しだけ赤くなっていた気がする。
私も…………

「…………」

「……返事、くれないか」

いざとなると照れ臭くて、恥ずかしい。
だけど普通の告白とは違い、
これは結果が分かっている告白だ。
何も、怖がることはないんだ。

「…………私も、好き。
昔から、好き、だった」

恥ずかしくて、
上手く喋る事が出来なかったけれど、
言いたい事が、口から零れていく。

「好きでたまらなかった。
でも、貴方が引っ越すって言って、
私に好きって言ってくれた事、
とても嬉しかった。だけど同時に、
寂しいとも思ったわ。
………貴方とまた会えて嬉しい。
本当に嬉しいの、私……」

「もういい」

彼はそういうと、私の髪を撫でた。
優しく、愛しいものを触るかのように。
彼の耳は赤く染まっていた。
だけど、気は強いようだ。
やがて両手は私の頬を包み、
近かった顔を、横に傾けて更に近づけた。
初めてのキス。

「笑うなよ」

彼からその言葉が聞こえた時。
唇に一瞬だけ柔らかい物が触れた。
その感触が彼のものだと思うと、
頭が変になりそうだ。

「俺さ……初めてなんだよ、キス。
お前と出来て良かった」

少し顔を離すと、
彼の顔は幸せそうに微笑んでいた。

「私も、ファーストキスだった。
幸せだよ、今」

「ああ、俺もだ………っ」

「っ!」

彼は勢いよく私の唇に吸い付いた。
愛しいものを欲するように。




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