分かんない。
「嫌!離して!」
圭祐が向かう先につく前に
私は精一杯暴れた。
それが少しきつかったのか
圭祐は降ろしてくれた。
しかしそれも束の間。
圭祐は私を腕の中におさめると
そのままベッドへ進んでしまう。
ベッドに押し倒されて、
圭祐は私の手首を固定した。
圭祐は私に覆い被さるようにして
無表情で私を見つめていた。
それなのに、
私の手首を固定する手の力は
明らかに感情を物語っていた。
だけど、私は出来る限り暴れた。
誰か、助けてくれる。
僅かに期待を抱いていた。
「はぁーい。お遊びはそこまでだ。
俺の愛する人との結晶を
汚さないでくれるかな、田所君?」
あまり聞いた事はなかったけれど、
声は父のものだった。
窓の所から入ったのだろうか。
父は母を姫抱きにして入っていた。
というか一体いつ、
どうやって入ったんだろう。
「…あはは、お父さん。
俺とコイツは付き合ってんすよ。
邪魔しないでくれますかね」
父さんは優しい笑みを浮かべていた。
「ははは、そうか、悪かったね。
でも美佐がマジで
嫌がってるようにしか見えなくてね。
そう思わないか?」
圭祐はケタケタと、おかしな笑いを見せた。
「あはは、なんて事。
美佐は恥ずかしがってるんですよ」
寸前まで微笑んでいた父の顔は
突然悪魔のように恐ろしい顔になった。
「空気の読めない奴だな。
一暴れしようか」
「務、それはダメよ」
「分かってる」
父は母を降ろすと、
圭祐の胸ぐらを掴んだ。
「女を泣かすなんて最低だぜ。
好きなら幸せを願え。
俺が幸せにしてやりたいって思っとけ。
美佐を苦しめてまで
美佐を自分の物にする事は
果たして本当にお前を幸せにすんのか?
人の苦痛がお前の喜びか?」
「………う」
「物には出来ても
心の底から愛してもらえねえぜ。
大好きな人に愛をもらえねえ
しかも恨まれる。
お前、本当にそれでいいのか?」
圭祐の表情は見えなかったけれど
圭祐は泣いている様子だった。