分かんない。
正月の災難
夏のあの時のように、
川上の兄さんが
車で迎えに来てくれた。
「あれ、克哉君は?」
後ろの席に乗ると
川上はそこに座っていなかったのだ。
サナさんもいないし、
私と川上の兄さんだけの
空間となっていた。
「美佐ちゃんってさぁ」
川上の家に向かう車の中で
川上の兄さんが話し始める。
「ほんと、可愛いよね」
彼はそういうと
急ブレーキをかけて止まった。
川上の家に行く途中の道でもあり、
その道にある駐車場に入ったのだ。
「え?何を……」
「いや、俺さぁ。
ほんと君が可愛すぎて
振っちゃったんだよね、サナ」
「はっ?」
男として最低な発言に
私は苛々を覚えてしまった。
あんな可愛い人を振るなんて、
有り得ない。
「俺さ、美佐ちゃんなら
落とせそうなんだよね〜。
克哉、美佐ちゃんの事
好きらしいけど、コクらないし。
この際だから俺が
奪っちゃおうかなぁみたいな!」
あまりにもふざけた発言に
私は川上が私を
好きだという事に驚くどころか
川上の兄さんに対しての怒りしか
頭になかった。
「ね。
今から遠いとこ行ってさ、
いいことしよ。
克哉なんかより俺の方が上手いし
絶対良い思い出になるって」
今ではそんな事を
軽々と話すこの男が気持ち悪い。
「行きません!
貴方は上手いかもしれないけど
相手の事が好きじゃないなら
最悪な思い出でしかありません。
早く川上の家に行ってくださいよ、
1人で歩いていきますよ!」
私は川上の兄さんを思い切り睨んだ。
本当は勝手に車を発信させられて
強引に遠い所へ
連れていかれてしまうのではないかと
怖くてしかたがなかった。
「あはは。
その顔、そそられるね
良い表情だ……」
川上の兄さんは身を乗り出して
後ろの、私がいる席を来ようとしている。
「いやっ、来ないで!」
私は必死に、
助けを求めるように車のドアに触れた。
だけどあかなかった。
鍵がかかっていたのだ。
鍵を開けようとしている間に
川上の兄さんに腕を掴まれてしまった。
「……ふふ。つかまえた」
彼の声は甘く、楽しそうだった。