分かんない。
いつからだろうか。
一之瀬は私の事を
普通に美佐と呼ぶ。
「美佐……おい、美佐?
美佐、美佐、美佐、美佐……
美佐……美佐!!」
一之瀬は私を追い回す。
もうあんたの顔なんて
見たくないの……。
ぎゅっ……。
乱暴なはずなのに
一之瀬は優しく私の腕を掴む。
全然痛くなどなかった。
「な………何」
「なんで最近俺から逃げるの?
俺、美佐に何かした?」
必死に私の目を
一之瀬は見つめる。
けれどそれを拒むように、
私の視線は一之瀬の外にあった。
「……別に」
「じゃあ、なんで」
「見たの」
「……見たって?」
「……私の事遊んでるんでしょ?」
「は?」
私がそう言うと、一之瀬は
豆鉄砲を喰らったような顔をした。
どうしてそう思うのかを聞かれる。
どうしよう。
一之瀬の名前を検索したなんて
怖い行為だし、言えない……。
杏子にやってみてって
言われたからといって
杏子のせいにするのは絶対に無理だ。
「……言ってよ」
首を横に振った。
―キーンコーンカーンコーン―
チャイムが鳴った。
私だけではなく一之瀬も
反応しているようだった。
「ほ、ほら!
……チャイム鳴ったよ。戻ろ」
「……あぁ」
一之瀬は苛立っているようにも見えた。
私の腕を掴みなおすと、
一之瀬は教室に向かって
速足で歩き出した。
一之瀬は何も知らないのだろうか。
だとしたらあの掲示板は何?
どうしてあんな反応をするの?
2人が席に座った後も、
やばい空気が流れていた。
周りの男女もどうやら、
私と一之瀬の空気がまずいと
感じ取っているようだ。
ああ、困った……。
「一之瀬くーん」
そんな中。
空気の読めない子が現れた。
同じクラスの華ちゃんだ。
彼女は甘えるように
一之瀬に擦り寄る。
ああ、駄目。その男は……。
「何」
一之瀬は怒りを隠そうともしていない。
一之瀬は華ちゃんを睨んでいる。
「前から思ってたんだけどぉ。
一之瀬くんってカッコいいよね!」