分かんない。
…………
クラス中が静まり返る。
誰もが気まずい空気を感じ取る。
それでも華ちゃんは
一之瀬と話をしようとしていた。
「はぁ?何、いきなり。
意味わかんねー」
一之瀬は席に座ったまま腕を組んだ。
まだ一之瀬は華ちゃんを睨んでいる。
「え?だって今、一之瀬くん
誰とも話してないから
チャンスじゃ――」
――バンッ。
一之瀬の怒りがついに爆発したのか、
両手で机を叩いて立ち上がった。
「……てめぇ。少しは空気読めよ」
一之瀬は一番怖い目で
華ちゃんを睨んだ。
歯を食いしばって
怒りを抑えているようだ。
下手をすれば華ちゃんを
殴ってしまいそうな勢いだ。
華ちゃんもようやく
一之瀬が怒っている事に
気がついたらしく、
表情に焦った色を浮かべていた。
「一之瀬、だめっ!」
一之瀬の右手が振り上がった。
「……………はっ……?
み…………、さ…………?」
「………ぁ」
信じられない光景に息を呑む。
自分でもどうして
こんな事をしてしまったのか
分からない。
私は……
一之瀬の背中に
自分の胸を押し付けるようにして
左手は一之瀬の腹を。
右手は一之瀬の右手を持っていた。
「あっ……!ご、ごめん!
そんなつもりじゃなかったの!」
それから私はすぐに
一之瀬から体を離した。
案の定一之瀬の思考が
麻痺しているためか、
怒っているようには見えなかった。
自分から抱きつくような行為を
するなんて初めてだ。
恥ずかしくてうつむいてしまった。
「美佐ちゃぁん、一之瀬くん……
ごめんなさい」
やっぱり華ちゃんには、
悪気などなかったようだ。
しかし空気が読めない事も
極力控えてほしいものだ。
華ちゃんが席に戻り、
周りもさっきのように
話が飛び交い始める。
それでも私と一之瀬の間に
会話というものは生まれなかった。
今回私が一之瀬に密着した事で、
噂は大きく広がった。
噂が確信のようになり、
他のクラスから
直接話を聞こうという人もいた。
川上や田所が来る事はなかった。