分かんない。
田所圭祐
いつもより早く学校へ行くと、
まだ教室には誰一人いなかったので
私は机に鞄をおき、
屋上へ行く事にした。
「うー、さみぃ」
それならこんなところに来るな。
と、心の中で自分に突っ込む。
私は柵に手をついて町並みを眺めた。
緑が少なく、建物だらけの世界。
心が痛くなるので、
今度は空を見上げることにした。
「ふう……」
ふわりと後ろに何かが引っ付く。
段々それからじわりと
人肌並みの暖かさが伝わる。
暖かい。
横目で左右に大きな手が
私と同じように
手をついていたのが見えた。
「……誰?」
首だけ後ろを向こうとするけれど、
その人の顔を
見るほどには曲げられず、
無理矢理ではあるが、
体ごとなんとかその人の方へ向けた。
「た………どころ……?」
田所の姿があった。
私を暖めてくれていたのだろうか?
だとしたら嬉しい。
「ありがとう、暖けえよ。
けどちょっと恥ずかしいかな、
このたいせ……い!?」
田所はいきなり
自分の2倍くらいの大きさで
柵についていた手を
私の背中に回した。
私は田所に抱かれる体勢となった。
とても……恥ずかしい。
「ちょ……田所。
恥ずかしいからやめろよ」
そう言うけれど、
彼からそれをやめる気配は感じられず、
むしろ力が強まった気がする。
「ああー……。
神埼のって……
めっちゃ柔らかくて気持ちいいな」
「………っ!」
そんなこと目当てで
女子を抱くような人だったのか?
「ちょっ!やめろよ、田所!」
私は本気で、田所の腕の中で暴れた。
しかし、それは逆効果で
更に強みが増して、
苦しくなってしまった。
嫌………だけど、
気持ちいいかもしれない。
丁度いい具合に、
胴に当たる柔らかくて温かいもの。
人の温もりを感じてしまった。
「………俺ね?
神埼の事……好きなんだ」
「…………はっ?」
声が裏返ってしまった。
意味が、分からない。