分かんない。



「……神埼!?」

ゆっくりと目をひらくと、
聞いた事があるような、
ないような、少年の声がした。
私の全く知らない人。

「…………誰?」

私は随分長く寝ていたのだろうか、
この真っ白な部屋で。
私と同じ年くらいの少年は
目を見開いて、そして
悲しそうな顔をした。

「え、俺の事分かんない?」

「……誰?」

どうして知らない奴がここにいるの?
少年は携帯を耳に当てると
誰かと会話を始めた。

「あ、もしもし。
神埼美佐のお母さんですか?」

誰かのフルネームだろうか。
相手側の声は、ここにいる私からでも
うっすらと聞こえるほど、
大きく叫んだ。

「本当!?今すぐ行くわ!」

身体が全く動かない。
長い間眠っていたから?

「……」

少年は電話を切ると、
焦ったような表情を浮かべた。

「本当に俺の事が分からないのか?」

「知りません、
誰なんですか、貴方は」

少し苛立ちを込めて返すと
少年は辛そうな顔を見せた。

「川上克哉だよ…」

「かわかみかつや……」

「お前自分の名前わかる?」

「は?馬鹿にしてるの?
私の名前はっ!」

あれ?

「名前は……」

「…名前は?」

何だっけ………




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